第11章 二つの刃<壱>
「十二、十三・・・お前で十四だ」
その指が炭治郎の顔を指さす。意味が分からず困惑する彼に、鬼はこの上ない程の醜悪な笑みを浮かべた。
「俺が喰った鱗滝の弟子の数だよ。|大海原《わだのはら》はそのあと行方知れずになったが、鱗滝はその後弟子を何人か取り続けた。だから俺は決めたんだ。アイツの弟子は皆殺してやる、って」
汐はその眼に再び不快感を覚えたが、鬼の言葉が気になった。奴は今《《行方知れず》》といった。どういうことだ?
しかし、汐の疑問を知ってか知らずか、鬼はうれしそうに語りだした。
「特に印象に残っているのは、二人だな。あの二人。珍しい毛色のガキだった。一番強かった。宍色の髪をしてた。口に傷がある」
その言葉に炭治郎の背中が大きくはねる。鬼はつづけた。
「もう一人は花柄の着物で女のガキだった。小さいし力もなかったがすばしっこかった」
今度は汐の背中がはねた。二人とも、彼らにこれでもかというくらいに覚えがあったからだ。
その二人の特徴が、錆兎と真菰に完全に一致していた。
(嘘だ・・・!真菰が、錆兎が、こいつに喰われていた・・・!?既に、死んでいた・・・!?でも、でも。あたしは確かに真菰とも錆兎とも会った。炭治郎だってそう・・・)
「目印なんだよ、その狐の面がなァ。鱗滝が彫った面の木目を、俺は覚えてる。アイツが付けてた天狗の面と同じ彫り方。『厄除の面』とか言ったか?それをつけているせいでみんな喰われた。みんな俺の腹の中だ。鱗滝が殺したようなものだ」
――やめて、やめて。これ以上、その先を言わないで
「これを言ったとき女のガキは泣いて怒ったな。フフフッ、そのあとすぐ動きがガタガタになったからな。手足を引き千切ってそれから・・・」
鬼がその先を続ける前に、炭治郎が動いた。襲い来る無数の腕を斬りながら進む。一見善戦しているように見えるが、その呼吸は乱れている。前しか見えていない。
その隙をついて死角から別の腕が、炭治郎の左わき腹に食い込む。そのまま彼は吹き飛ばされ、大木に背中を激しく打ち付けた。
面が粉々に砕け、炭治郎の傷跡の部分から血が流れだす。そのまま彼は気を失った。
いつの間にか参加者は消え、そこには炭次郎と鬼だけが残された。鬼がじりじりと炭治郎ににじり寄る。