第91章 蠢く脅威<肆>
水の呼吸は自分の身体に適しておらず、義勇や鱗滝のように使いこなすことはできない。
ヒノカミ神楽なら自分の身体に適しているが、一撃が強い反面、連発ができない。
だが、このままでは汐の命が危ない。
炭治郎は疲労困憊の身体を叱咤しながら立ち上がると、再び堕姫に斬りかかった。
赤と青の斬撃が堕姫の帯を穿ち、時には互いを見ては動きを決め、やがて段々と二人の動きは合わさり向かっていく。
少しずつ高まっていく二人の力を目の当たりにして、堕姫は胸の奥から何かが沸き上がってくるような感覚を感じた。
誰かと、二人が重なる――
(何なのよこいつら。兄妹ってわけでもないのにこの動き。嗚呼うっとおしい、うっとおしい!!こんな雑魚共じゃなくて柱だったらよかったのに!)
そんなことを考えていると、不意にどこからか凄まじい気配を感じ、堕姫は振り返った。
すると遠くから、風を切るような音と共に何かがこちらに向かってくるのが見えた。
(あれは・・・帯!?)
汐達の目の前で帯は次々と堕姫の身体に吸い込まれるようにして消えてゆく。
(帯が身体に入っていってる。いや、戻っているのか?分裂していた分が)
「!!」
炭治郎がすぐさま動き、堕姫に向かって刀を振った。しかしその切っ先は空を切り、風を切る音だけが虚しく響いた。
二人は慌てて首を動かし堕姫を捜すと、屋根の上にその姿を見つけた。
だがどうも様子がおかしい。
「やっぱり“柱”ね。柱が来てたのね。良かった。あの方に喜んで戴けるわ・・・」
漆黒だった堕姫の髪色は銀色に変わり、背中の帯の数が増えている。
そしてその眼は、匂いは、汐と炭治郎を戦慄させるほど禍々しいものになっていた。