第91章 蠢く脅威<肆>
(あいつ、柱が来てるって言った。じゃあ、派手男がこっちに?)
「おい、何してるんだお前たち!!」
不意に声が聴こえてきて汐達が振り返ると、一人の男が頭から湯気を吹き出しながら建物の中から転がり出てきた。
見れば他の店からも騒ぎを聞きつけて、幾人かの人が顔を出していた。
「人の店の前で揉め事起こすんじゃねぇよ!」
その騒ぎを見て、堕姫は不快そうに顔をしかめるとその瞬間鬼の気配が強まった。
「駄目だ、下がってください!建物から出るな!!」
炭治郎が声を荒げると同時に、堕姫がその帯を大きく振り上げようとした。
「止めろォーーーッ!!!!」
汐が叫んだ瞬間、堕姫の帯の動きが急激に鈍り、一瞬だけとまった。だが、堕姫はそのまま帯を大きく町全体に振りぬいた。
「汐!!」
空気を切り裂くような声が響き、汐の身体は地面に叩きつけられるように引き倒された。
その衝撃に汐は思わず顔をしかめ、身体に走った衝撃に歯を食いしばる。
それと同時に辺り一帯は堕姫の帯によって切断され、瓦礫が雨の様に降り注いだ。
だが、汐の意識はその痛みでも瓦礫でもなく、顔に滴り落ちたモノに急激に吸い寄せられた。
「・・・・!!」
汐の喉から空気が漏れ、目の前のものに視線が釘付けになった。
そこには汐を庇って堕姫の帯に背中を大きく切り裂かれた、炭治郎の姿があった。
「炭治郎ーーーーーッ!!!!!」
汐の悲痛な叫びが木霊し、それを追うように辺り一帯からも悲鳴とうめき声が上がり、町は阿鼻叫喚の地獄絵と化していた。
それを目の当たりにした瞬間、汐の身体が急激に冷たくなり目の前が段々と赤くなっていくのが分かった。
顔に滴り落ちる炭治郎の命の雫だけが、ぞっとするほど温かかった。
その時汐の無意識領域では、再び異変が起こっていた。
汐の殺意を封じている扉の鍵の鍵が、一つ、二つ、三つと次々に砕け散った。
『・・・駄目だ・・・』
それを見た番人は身体をわななかせ、小さく言葉を漏らしたのだった。