第91章 蠢く脅威<肆>
「何よその眼。ギラギラってして不愉快。どいつもこいつも、目障りなのよ糞虫が!!」
激昂した堕姫が先ほどとは比べ物にならない程の量の帯を、二人に向かって四方から振り下ろしてきた。
その一撃をかわすと、汐は口から弦をはじくような高い音を鳴らした。
――ウタカタ 壱ノ旋律――
――活力歌!!!
汐の奏でた歌は、炭治郎の体と心を活性化させ、同時に汐も身体の痛みを和らげた。
そのせいか、体は驚くほど軽く動きがよくなり、炭治郎は思わず目を見開いた。
(この感覚は、あの時。那田蜘蛛山で感じた汐の歌!)
その瞬間、炭治郎は確信した。この人が、汐がいれば俺は何処までも戦える。
二人なら、戦い抜ける!!
炭治郎の眼に闘志の炎がともり、同時に汐を痛めつけた堕姫に激しい怒りを感じた。
「汐。俺が前に出る。お前は援護を頼む!」
「わかった!でも気を付けて。あの女の頸、わかめみたいに柔らかすぎて普通じゃ斬れないわ」
汐の言葉に炭治郎は少し驚いた顔をしたが、何故だかそれはあまり重要には感じなかった。
普通に斬れないなら、斬れる方法を考えればいい。
堕姫が再び帯を放ち、汐は炭治郎とは別方向に走り出した。堕姫の帯二つに分かれて二人を追う。
凄まじい速さで帯が追ってくるが、甘露寺と伊黒の訓練がもたらした汐の身体は、まるで舞姫の如く全ての攻撃をかわしていく。
一方炭治郎も、汐の歌のお陰で身体能力が向上しているせいか、汐同様帯の攻撃をすべて受け流していた。