第91章 蠢く脅威<肆>
「炭治郎!!」
汐はうれしさと驚きの混じった声で名を呼ぶと、炭治郎は汐の顔を見て申し訳なさそうに眉根を下げた。
「遅くなって済まない。急に帯の使い魔が逃げ出したから追ってきたら――。あれが本体。この町に潜んでいた鬼か」
炭治郎はごくりと唾をのみながら、目の前に立つ堕姫に向かって刀を構えた。
(なんて匂いだ。鼻だけじゃなくて喉も肺も苦しい。こんな奴と、汐はたった一人で戦っていたのか・・・!)
汐を見れば、血の匂いはしないものの隊服と羽織が汚れており、周りを見ればあちこちが破壊された跡があり、それだけ二人の戦いが激しかったということが見て取れた。
「怪我はないか!?」
「あたしは平気。こんな阿婆擦れ婆なんかにやられてたまるもんですか!まだまだいけるわよ!!」
汐は先ほどまでの恐れを払しょくするかのように声を張り上げ、再び刀を構えた。その言葉に嘘はなかった。
炭治郎が傍にいる。大切な人が傍にいる。そのことだけで、汐の士気は嘘のように上がった。
こうして二人並んで戦うのは、無限列車の件以来でのことで、あの時は煉獄がいなければ皆死んでいただろう。
でも今は違う。汐も炭治郎も強くなっている。もう二度と、あの時のような思いはしたくない。
絶対に死なないし死なせない!
その様子を見て、堕姫は不愉快そうに顔を思い切りゆがませると吐き捨てるように言った。