第89章 蠢く脅威<弐>
「汐。俺は夜になったら、すぐに伊之助のいる“荻本屋”へ行く。伊之助はそれまで待っててくれ」
「はあ?あんた一人で行く気?だったらあたしも」
「お前は店に残っててくれ。いきなりいなくなったら怪しまれるし、伊之助も一人で動くのは危ない」
「おいお前等!何勝手に話進めてんだ!それに俺のトコに鬼がいるって言ってんだから、今から来いっつーの!頭悪ィな、テメーはホントに!」
伊之助は炭治郎の頬を引っ張りながら捲し立て、その声の五月蠅さに下にいた者は顔を引き攣らせた。
「ひがうよ」
「あーん!?」
伊之助は炭治郎の頬から手を放せば、今度はペムペムと音を立てながら炭治郎の頭を叩き始めた。
「夜の間、店の外は宇髄さんが見張っていただろう?でも善逸は消えたし、伊之助の店の鬼も今は姿を隠している。イタタ、ちょ・・・ペムペムするのやめてくれ」
「止めてやんなさいよ馬鹿猪。炭治郎がこれ以上阿呆になったらどうするのよ」
「汐ちょっと黙っててくれないか。それで俺は、店の中に通路があるんじゃないかと思うんだよ」
炭治郎の言葉に伊之助は思わず手を止めて「通路?」と聞き返した。
「そうだ。しかも店に出入りしてないということは、鬼は中で働いている者の可能性が高い。鬼が店で働いていたり、巧妙に人間のふりをしていればしているほど、人を殺すのには慎重になる。バレないように」
「そうか・・・。殺人の後始末には手間がかかる。血痕は簡単に消せねぇしな」
「ここは夜の街だ。鬼には都合のいいことも多いが、都合の悪いことも多い。夜は仕事をしなきゃならない。いないと不審に思われる」
炭治郎が自分の推理を伊之助に話している中、不満そうな顔をした汐は刺々しく声を掛けた。