第89章 蠢く脅威<弐>
「お前らは花街(ここ)から出ろ。階級が低すぎる。ここにいる鬼が“上弦”だった場合、対処できない。消息を絶った者は死んだと見なす。後は俺一人で動く」
「いいえ宇髄さん、俺たちは・・・!!」
炭治郎が何かを言おうと口を開くが、宇髄はそれを遮ってさらに言葉をつづけた。
「恥じるな。生きてる奴が勝ちなんだ。機会を見誤るんじゃない」
「待てよオッサ「待ちなさいよ」
伊之助の言葉を遮り、汐は静かに宇髄の背中に言葉をぶつけた。
「あんたふざけてんの?ここまで首突っ込ませておいてさっさと帰れだなんて。あたしたちがこのままはいそうですかなんて引き下がるとでも思ってんの?」
汐の言葉宇髄は肯定も否定もせず、ただ背中を汐に向けたまま動かない。
「判断を間違えた?消息を絶った者は死んだとみなす?生きている奴が勝ち?何勝手に決めてんの?何自分で勝手に自己完結してんのよ。何勝手に善逸やあんたの女房を死んだことにしてんのよ!あんたが言っていることってそう言うことじゃない!!」
「止めろ汐!言いすぎだぞ!」
炭治郎は汐を慌てて諫めるが、汐の口は止まらない。彼女の鋭い声が宇髄の心に深く突き刺さり、ジワリとした痛みが広がっていく。
「善逸がこの程度でくたばるタマか。あいつは呆れるほど本能に忠実な男で恥も晒すけれど、強い男よ。それにあんた言ってたじゃない。自分の女房は優秀なくのいちだって。そんな人たちを亭主であるあんたが信じてやらなくて誰が信じるんだ」
汐の言葉は全員の耳に染み渡り、心の中に吸い込まれていく。その時炭治郎は宇髄から、苛立たしさに交じって少しだけ希望を持った匂いを感じた。
しかし
「なんとでも言いやがれ、小娘が」
宇髄はぽつりとそれだけを言うと、煙のように姿を消した。残ったのは彼がいた場所に微かに舞う芥だけだった。