第89章 蠢く脅威<弐>
「そろそろ宇髄さんと善逸が定期連絡に来ると思うから・・・」
「こうなんだよ、俺にはわかってんだよ」
「だーかーらぁ!!あんたが分かってたってあたしたちが分かんないんだから何の意味もないでしょうが!!」
このままでは汐が伊之助につかみかかりかねないと察した炭治郎は、何とかして二人を落ち着けようと声を掛けようとした。
だが、
「善逸は来ない」
不意に背後から声が聞こえ、三人は一斉に首をそちらに動かした。そこにはいつの間にか宇髄が皆に背を向けたまま静かに座っていた。
(コイツ・・・やる奴だぜ。音がしねぇ・・・風が揺らぎすらしなかった・・・)
伊之助の触覚ですら感じ取れなかったその気配に、宇髄がそれだけ気配を消すことに長けている存在だということが否でも分かった。
「あんた、今なんて言ったの?」
「善逸が来ないって、どういうことですか?」
「お前達には悪いことをしたと思っている」
汐と炭治郎が問いかけると、宇髄は振り返りもしないままぽつりとつぶやくように言った。
「俺は嫁を助けたいが為に、いくつもの判断を間違えた。善逸は行方知れずだ。昨夜から連絡が途絶えている」
行方知れずという言葉に、三人の肩が微かに跳ねた。