第89章 蠢く脅威<弐>
翌日。汐は朝の稽古を終わらせた後、定期連絡の為にこっそりと部屋を抜け出し集合場所へ赴いた。
その場所は店の屋根の上。日の光が直に当たるため鬼は勿論近寄れない上、人目を避けるのにも絶好の場所だ。
「ごめん、遅くな「だーかーら!!俺んところに鬼がいんだよ!!」
汐の言葉を遮って、伊之助の声が辺りに響いた。何事かと思い顔を出せば、既にそこには炭治郎と伊之助の二人がオリ、伊之助は喚きながら身振り手振りで炭治郎に何かを伝えようとしていた。
「うるさいわね、何を騒いでんの?」
声を掛けると二人の視線は汐に向けられ、炭治郎は「来たのか」といい、伊之助は「遅せえぞ!」とだけ言った。
「伊之助のいる店に鬼がいるって話なんだけれど、なんというか、その・・・」
「だからよ!!こういう奴がいるんだっての!!こういうのが!!」
伊之助は両手を大きく振り上げ何かを伝えようとしているのだが、汐と炭治郎には何のことだかさっぱりわからなかった。
「いや・・・うん、それは、あの・・・。ちょっと待ってくれ」
「全然わかんないわよ。ちゃんと人間の言葉で喋んなさいよ」
困惑する炭治郎と呆れかえる汐に、伊之助は頭から湯気を出しながら再びおかしな動きでまくし立て始めた。