第88章 蠢く脅威<壱>
「あなたもって・・・?」
「さっき炭ちゃんも須磨ちゃんのことを聞きに来たのよ。須磨ちゃんは炭ちゃんのお姉さんだったみたいで、足抜けなんてする人じゃないって。でもどうしてあなたも?」
その話を聞いて、汐は炭治郎の仕事の速さに驚きつつも、さらに踏み込もうと拳を握りながら話し始めた。
「実はあたしの父親はとんでもない女好きであちこちに女作ってたらしくて、母親が死んだあとあたしは養子に出されたんです。その時もしかしたらあたしには母親違いの姉がいるかもしれないって教えられて。もしかしたら炭子も、あたしの妹かもしれないから、それで・・・」
我ながら苦しい嘘かもしれないと思っていたが、全部嘘ではなく時折真実も混ぜながら話した。すると鯉夏は同情を宿した眼で汐を見つめた。
「まあそうだったの。大変だったわね」
鯉夏はそう言って汐の頭を優しくなでた。その手の温かさと優しさに、汐の胸が締め付けられるように苦しくなった。
「須磨ちゃんはとても素直な子だから、足抜けなんてする子じゃないはずなの。でも、日記が見つかって足抜けするって書いてあったらしくてね。今でも信じられない気持ちでいっぱいなのよ」
(なるほど。足抜けしたって思わせれば、突然いなくなってもいろいろとごまかせる。日記なんてよく調べない限りいくらだって捏造できる。しかも今は人手不足で他人なんて構ってられない状況。腹が立つくらい、鬼側にとって絶好の状況だわ・・・)
汐はぎりりと奥歯をかみしめ、拳を握った。脳裏に平静を装っているが不甲斐なさと苛立ちの眼をした宇髄の姿が蘇る。
そんな表情の汐を見て、鯉夏は優しい声色でつづけた。