第88章 蠢く脅威<壱>
「ふう・・・。まさか遊女の稽古があんなにきついなんて。精神力がなかったら、間違いなく心が折れてるわね」
みっちりと稽古をこなし、休息時間をもらった間。汐はこっそりと店の中を回り情報を集めようとした。
先輩たちの噂話や、仲良くなった禿たちから何とか須磨の情報を聞き出そうと試みた。
「須磨花魁は、やっぱり足抜けしたのかな。もうずっと姿を見てないし」
「でも、あの人はとっても優しい人だったよ。足抜けなんてするかなぁ・・・」
だが、あまり込み入った情報は入ってこず、これ以上の情報を得るにはもっと上の人間。同じ花魁の話を聞くしか方法がないように思えた。
(かといって鯉夏花魁にはもう二人の禿がいる。花魁につくのは二人って決まっているから、あたしが禿になるのは不可能だし・・・)
そんなことを考えていると、忙しそうに走り回る一人の店の者が、汐を見るなり慌てた様子で走り寄ってきた。
「ああ、忙しい!そこのあんた!悪いんだけれど、これを鯉夏花魁の部屋まで届けてくれないかい?」
「え。あたしが?」
「あんた意外に誰がいるんだい!こっちは忙しいんだ。早くしておくれ!」
汐に強引に荷物を押し付けると、彼女はあわただしくその場を去り、汐は荷物を抱えたまま立ち尽くしていた。