第87章 鬼潜む花街<肆>
その話を聞いて、炭治郎は思わず足を止めた。須磨の事にはあまり関係のないことの話のはずなのに、なぜか気になったのだ。
(そう言えば汐の育ての親の玄海さんは、確か遊郭に通い詰めていたって話を前に聞いたな。もしかしたらここにも来ていたんだろうか)
だとしたら汐も喜ぶんじゃないかと思ったが、確信のない話を聞かせて中途半端な期待をさせるのも忍びない。
そんなことを考えていたが、遊女の次の言葉で炭治郎は思わず表情をひきつらせた。
「だけど外では素行が悪かったみたいでね。武士の魂の刀を売ろうとしたり、仲間が怒鳴り込んできたりといろいろとあったみたいよ」
「そこまでして通っていたとは。まあ廓で働く女に取っちゃ、絶好の鴨だけれどね」
(・・・絶対に玄海さんだ・・・)
その言葉を聞き、炭治郎は心の中で海旦那が玄海の事であることを確信した。そしてそんな彼に振り回された鱗滝やかつての仲間。そして娘である汐に、少なからず同情するのだった。