第87章 鬼潜む花街<肆>
「あ、起きた。全く何やってんのよ」
「あ、れ?お前・・・」
「しっ。誰が聞いてるかわからないんだから、あたしの事は汐子って呼びなさいって。後口調に気を付けて。派手男に言われたでしょ」
「ああそうか。じゃない、そうね。ごめんなさい」
炭治郎は慣れない女性言葉で汐に謝るが、汐はそんな炭治郎に微妙な気分になりながら言葉をつづけた。
「で、あんたはあんなところでなんでぶっ倒れてたのよ。みんな魂消てたわよ?」
「あ、うん。その、汐、汐子があまりにも綺麗すぎて・・・驚いて」
顔を真っ赤にしてうつむく炭治郎に、汐の顔も赤くなり思わず頭をひっぱたいた。
少し落ち着いた後、汐は周りを見回しながら声を潜めて言った。
「それで、ここに潜入した感想は?」
「みんな笑ってはいるけれど、凄く悲しい匂いがする」
「そうね。どいつもこいつも悲しい眼をした連中ばかり。まあ遊郭なんて借金返すために馬車馬のようにこき使われる世界だからね」
汐が吐き捨てるように言うと、炭治郎は悲しみに満ちた表情で再び俯き、汐はそんな空気を変えるように声を潜めながら言った。
「とりあえず確認ね。定期連絡は晴れた日の屋外。あたしたちは緊急時以外は極力接触しない。知りえた情報は隠さず報告。いいわね」
「うん。それと、何かあったらすぐに知らせること。汐は特に癇癪を起さないこと」
「わかってるわよ、五月蠅いわね」
汐はそれだけを言うと、炭治郎に気を付けるように忠告して部屋を出た。