第86章 鬼潜む花街<参>
「やっと見つけたわよ!!この大ぼら吹き!!」
耳をつんざくような大声が汐と宇髄の両耳を穿ち、何事かと振り返れば、そこには先程炭治郎を連れて行ったときと屋の女将が顔を真っ赤にして息を切らして立っていた。
「あんた、確かたん・・・炭子を連れて行った・・・」
「あんた一体全体どういうことなのよ!!あんな傷物よこして!!あんなんじゃ客なんてつかないわよ!!」
鼻息を荒くしながら烈火のごとく怒る女将を見て、汐は炭治郎の額に傷があることを思い出した。だが、この言い草はいくらなんでもあんまりだ。
(花街では女は【物】【商品】。おやっさんから聞いてはいたけれど、本当なのね。胸糞悪い)
汐が顔をしかめながら女将を見ていると、宇髄は汐を押しのけながら前に立つと、深々と頭を下げた。
「悪かった。本当に悪かった。その詫びといっちゃなんだが、こいつを連れて行ってくれねえか?」
そう言って宇髄は汐の手を取ると、女将の前に差し出すように立たせた。
「こいつの顔には傷一つなく、体もまっさらだ。確かに顔つきは微妙だが、よく働き、話も歌もうまい。勿論金は要らない。だから、ここは俺に免じて許してくれねえか?」
そう言って宇髄は整った顔立ちで笑うと、怒りで真っ赤になっていた女将は、今度は別の意味で赤くなっていた。そしてしどろもどろになりながらも「今回だけだよ」とだけ言って、汐の手を引いて歩き出した。