第86章 鬼潜む花街<参>
「まず一つ。あんた、本当はアオイたちを連れていくつもりはなかったんじゃないの?あたしたちを焚きつけてその気にさせてここへ連れてくる気だったんじゃないの?」
「・・・何を言い出すかと思えば、買いかぶりすぎだ」
「だったら何で蝶屋敷であんな派手に騒いだの?炭治郎達はともかく、あたしの住んでいる屋敷は蝶屋敷からさほど離れてもいない。あんたの頭なら、騒ぎを起こせばあたしが出てくるのはわかっていた筈よ」
汐が問い詰めるように目を細めると、宇髄はしばらく汐を見つめていたが、目を閉じて「さあな」とだけ答えた。
「じゃあもう一つの質問。あんた、あたしの、ワダツミの子のことを嗅ぎまわっていたわよね。あれから新しいことはわかったの?」
汐の問いかけに宇髄は少しだけ言葉を切ると、頭をかきながらぽつりと答えた。
「なーんも」
「は?」
「だからなーんもわからなかったんだよ。この俺が派手に調べているっていうのに、巧妙に隠されてて一向にわからねえ。よっぽど知られたくないのか、将又埋もれちまっているだけなのか、それすらわからねえんだよ」
そう言う宇髄は、心なしか少し苛立っているように見えた。調査がうまくいかないことも勿論だが、やはり連絡の取れない妻達を思っての事だろう。
「ただ・・・」と、宇髄は一つだけ言葉を漏らした。
「これは俺の憶測にすぎないが、お前の養父の家、【大海原家】もワダツミの子に深くかかわっている可能性がある」
「大海原・・・家?」
思ってもいない言葉に汐は目を見開き、宇髄を見上げた。自分の名字は、玄海からもらったものであり、それだけだと思っていた。
しかし汐は玄海が鬼狩りであったことすらしらず、それ以上のことは何も知らなかった。
「大海原家・・・おやっさんの過去・・・もしかしたら・・・」
汐は宇髄から視線を逸らし、考え込むようにうつむいた、その時だった。