第86章 鬼潜む花街<参>
「ねぇちょっと・・・、コレドウイウコト・・・?」
「いや、これは流石に予想外だわ・・・。本当の女であるお前が売れ残るなんて・・・ブフッ」
「おいこっち向けよ。目を逸らしてんじゃねぇぞこの野郎」
怒りのあまり片言になる汐は、ギリギリと音を立てて首を思い切り後ろにそらしながら、宇髄をこれでもかというくらい睨みつけた。
しかし彼は汐から顔を逸らしたまま、背中を小刻みに揺らしていた。
「大体あんたの化粧が下手糞なのがいけないんでしょ!?前にみっちゃんにしてもらったときは、それなりに可愛くできてたのよ!?野郎共は全員潜入出来たってのに、なんであたしだけ置いてけぼりなのよ!!」
「まぁまぁ落ち着け騒音娘。お前が選ばれなかった理由はおそらく、ワダツミの子の人避けのせいもあるんだろう」
人避け。ワダツミの子が自分の力を悪用されないように無意識のうちに生み出した特性。普段汐が男と間違われるのはその名残なのだが、どういうわけかそれが強く出ているように感じた。
「それにお前にも仕事がないわけじゃない。俺の補佐、基奴隷っていうありがたい仕事が残っている」
「奴隷がありがたい仕事だと思ってんなら、あんたの頭の中は筋肉の他にも花が咲いているのね」
汐は思いっきり皮肉を込めてそう言うが、ふと小さく息をつきながら言った。
「まあいいわ。あんたには聞きたいことがあったから、この際まとめて聞かせてもらうけれどいいわよね?」
汐は視線を鋭くさせると、人差し指を立てながら口を開いた。