第85章 鬼潜む花街<弐>
(柱であるこいつがつかめないなんて、よっぽどかくれんぼが旨い鬼なのね)
その事実に汐は思わず唾を飲み込み、炭治郎も緊張しているのか眼が微かに不安を宿していた。
「すでに怪しい店は三つに絞っているから、お前らはそこで俺の嫁を捜して情報を得る」
――“ときと屋”の『須磨』、“荻本屋”の『まきを』、“京極屋”の『雛鶴』だ。
宇髄は店の名と妻の名を指を立てながら順番につげ、汐と炭治郎はその情報を必死に頭の中に刻みつけた。
だが、
「嫁、もう死んでんじゃねぇの?」
今まで黙っていた伊之助が鼻をほじりながら言い放つと、炭治郎と汐の顔が瞬時に引き攣った。が、間髪入れずに宇髄の拳が今度は伊之助の鳩尾に綺麗に叩き込まれた。
「・・・流石に今のは擁護できない。あたしでもそれはないと思うわ」
話すなといわれていた汐が思わずつぶやきを漏らし、炭治郎は考えることをやめたのか悟りを開いたような表情を浮かべていた。