第85章 鬼潜む花街<弐>
「三人いるからな、嫁」
「・・・はい?」
全く予想だにしていなかった宇髄の言葉に、汐は素っ頓狂な声を上げ、炭治郎は固まり、そして善逸に至っては・・・
「三人!?嫁・・・さ・・・三!?」
目玉が零れ落ちそうなほど目を見開き、唾を思い切り飛ばしながら鼻息荒くまくし立てた。
「テメッ・・・テメェ!!なんで嫁三人もいんだよ、ざっけんなよ!!」
そんな善逸に遂に堪忍袋の緒が切れたのか、宇髄はその強靭な右腕を容赦なく鳩尾に叩き込んだ。善逸はうめき声をあげて吹き飛び、あたりには静寂が訪れる。
「なんか文句あるか?」
宇髄の言葉に炭治郎と伊之助は声を失うが、汐は苦虫を噛み潰したような表情で彼を見ながら口を開いた。
「え?三人って・・・それって重婚じゃないの?不潔!ケダモノ!!」
「よーしお前黙れ。派手に黙れ。二度と喋るな話が進まん」
汐の毒舌に反論する気も失せたのか、宇髄は冷徹な声でそう言い、炭治郎はそっぽを向く汐を窘めた。
「あの・・・手紙で【来るときは極力目立たぬように】と、何度も念押ししてあるんですが・・・具体的にどうするんですか?」
手紙を読んでいた炭治郎が顔を上げながら言うと、宇髄は目を鋭くさせながら静かに答えた。
「そりゃまあ変装よ、。不本意だが地味にな。お前等には【あることをして】潜入してもらう」
宇髄の話では、彼の三人の妻は女忍者、すなわちくの一であり、彼が考えるに人が多く集まる花街は鬼の絶好の餌場であること。
以前に宇髄が客として赴いたときにはその足取りはつかめず、彼女たちは客よりももっと内側に入ってもらったということだった。