第85章 鬼潜む花街<弐>
藤の花の家紋の家。汐達も以前に世話になった、かつて鬼殺隊に命を救われたものが構える家。
鬼殺隊ならば無償で手助けをしてくれるのだ。
一足先にたどり着いた宇髄は、家の者に偉そうに指図し、家の者もいやな顔一つせずに応じた。
客間に通された汐達は、宇髄からおおよその説明を受けた。
これから赴く遊郭、【吉原】に鬼が潜伏しているとの情報があり、宇髄は少し前からその調査をしていた。
汐が甘露寺と共に以前に彼の屋敷を訪れた時に出会った時からの任務らしく、少なくとも四か月以上は経っているとと思われた。
「――てなわけだ。遊郭に潜入したら、まず俺の嫁を探せ。俺も鬼の情報を探るから」
一通り説明をした後、宇髄は額当てを直しながらそう言った。その傍らでは出された菓子に食らいつく伊之助と、それを力づくで制止させようとする汐と、湯飲みを持ったままぽかんとする炭治郎。しかし善逸はその話を聞いた瞬間、身体をわなわなと震わせたかと思うと、
「とんでもねぇ話だ!!」と、汚い高音で言い放った。
そんな彼に宇髄は怒りを込めた眼で睨みつけるが、善逸は臆することもなくさらに声を荒げた。
「ふざけないでいただきたい!!自分の個人的な嫁探しに部下を使うとは!!」
その顔からは何故か涙と鼻水があふれ、汐はその汚らしさに思い切り顔を引き攣らせながら距離をとった。
しかし汐はかつて、師範である甘露寺から柱の大まかな紹介をされたとき、宇髄が既婚者であることをちらりと聞いていた。
だから彼が言うのは、自分の【将来の嫁】を捜すのではなく、自分の【嫁】を捜すという意味なのだろうが、善逸が汚い高音でまくし立てるため汐は朽ちを出せないでいた。