第85章 鬼潜む花街<弐>
真剣そのものの表情で恥ずかしげもなく言い放つ宇髄に、汐と善逸は呆れかえり、考えることをやめようとした。が、そんな中、今まで黙っていた伊之助が腰に手を当てながら彼同様得意げに言った。
「俺は山の王だ。よろしくな、祭りの神」
伊之助がそう言った瞬間、空気が一瞬凍り付いて沈黙が辺りを支配した。皆の視線が伊之助に集まる中、真っ先に口を開いたのは宇髄だった。
「何言ってんだお前・・・気持ち悪い奴だな」
先程の得意げな表情はなりを潜め、真顔で否定の言葉を口にすれば伊之助は憤慨し、善逸と汐は目を剥いた。
(いや、アンタと どっこいどっこいだろ!!引くんだ!?)
(同族嫌悪って奴かしら。変な奴と変な奴は相いれないってことね)
憤慨する伊之助を軽く煽る宇髄を眺めながら、善逸と汐はそんなことをぼんやりと考えていた。
「まあ伊之助はおいておいて。このあたりの遊郭って言ったら吉原辺り?」
「ほぉ~、地味なおぼこっぽく見えて、派手に知っているじゃねえか」
「あたしの養父が聞きたくもないのに何回も話してくれていたからね。おかげさまで名前だけは知っているわよ」
ふんと鼻を鳴らす汐だが、炭治郎はそんな彼女からほんの少しだけだが切ない匂いを感じた。
「花街までの道のりの途中に藤の家があるから、そこで準備を整える。ついてこい」
いうが早いか宇髄の姿はまるで煙のように消えてしまい、汐達は驚きに目を見開いた。
「えっ、消えた!?」
「違うわ、あそこよ!」
慌てふためく男たちをしり目に、汐ははるか遠くにいる宇髄の背中を指さした。
「はや!!もうあの距離、胡麻粒みたいになっとる!!」
「これが祭りの神の力・・・!」
「いや、あの人は柱の宇髄 天元さんだよ」
「んなこと言ってる場合じゃないわよ!もたもたしてたら見失うわ!あたしは先に行くわよ!!」
汐はそう言うなり、宇髄の走り去った方角に向かって飛ぶように駆け抜けた。その速さに三人の男たちはあんぐりと口を開けた。
「あ、あいつもはええ!!もう見えなくなっちまった!」
「流石汐!柱の継子に選ばれただけはあるな」
「感心している場合じゃないよ!早く二人を追わないと!!」
善逸に促され、炭治郎と伊之助は慌てて二人の後を追い蝶屋敷を後にした。