第84章 鬼潜む花街<壱>
「愚か者。俺は“元忍”の宇髄 天元様だぞ。その界隈では派手に名を馳せた男、てめぇの鼻くそみたいな頭突きを喰らうと思うか」
「じゃあ、別方向から一撃はどう?」
いつの間にか宇随の背後に回っていた汐が、彼に向かって拳を振り上げていた。その素早さに彼は少しだけ驚いた表情を見せたが、それも軽く躱される。
が、
――ウタカタ・参ノ旋律――
――束縛歌!!!
ピシリという音と共に宇髄の身体が強張り、汐はその足の間に向かって蹴りを叩き込もうとした。しかし宇髄は瞬時に汐の拘束を引きはがすと、二人を抱えたまま後ろに大きく下がった。
「ちっ!蹴りつぶしてやろうと思ったのに、掠っただけか」
下に降りた汐は舌打ちをしながら思い切り皮肉を込めた言葉を放つが、その顔には悔しさが滲んでいた。そんな汐を見て、炭治郎は足の間に何故か冷たいものが押し付けられたような妙な感覚を感じた。
「ハッ!詰めが甘いんだよ騒音娘」
汐を嘲笑うかのように得意げな表情をする宇髄に、今度はした方向から言葉の刃が飛んできた。
「アオイさんたちを放せ、この人さらいめ!!」
「そーよそーよ!!」
「いったいどういうつもりだ!!」
「変態!!変態!!」
下から投げつけられるあまりのいいように、流石の宇髄も堪忍袋の緒が切れたのか、炭治郎達に顔を向けると思い切り怒鳴りつけた。
「てめーらコラ!!誰に口利いてんだコラ!!俺は上官!!柱だぞ、この野郎!!」
「お前を柱とは認めない!!むん!!」
「むん、じゃねーよ!!お前が認めないから何なんだよ!?こんの下っぱが、脳味噌爆発してんのか!?」
炭治郎の無礼な言葉に宇髄は顔中の筋肉を痙攣させながら声を荒げつつけた、そんな彼を見た汐は呆れたように言い放った。