第84章 鬼潜む花街<壱>
「俺はこれから任務で女の隊員が必要なんだ。お前に用はない、失せろ」
「は?誘拐なんてクソッタレな事やらかそうとしている阿呆を放っておくと思ってんなら、あんたの頭は相当おめでたいのね。いいからとっとと二人を放せや筋肉達磨」
「誰が筋肉達磨だ騒音娘!!俺は柱だぞ!?口の利き方に気を付けろ!!」
「んだとテメー!!!誰が騒音娘だこの野郎!!柱のくせに人の名前すらきちんと覚えられないのかバーカ!!」
宇髄は汐にぶつけられた暴言に激昂し、声を荒げたその瞬間。隙を狙ってきよとすみが一斉に彼に飛び掛かった。
「と、突撃――!!」
きよが宇髄の首に飛びつき、すみが足に縋りついて動きを止め、カナヲはずっと二人の手を離さない。
その隙をついて汐がウタカタを放とうと息を吸ったその時だった。
「女の子に何しているんだ!!手を放せ!!」
聞き覚えのある声が響いて汐が視線を向けると、そこには任務から帰ったばかりの炭治郎が額に青筋を立てながら声を荒げていた。
しかし彼の視線は、少女たちに群がられている宇髄の奇妙な姿にくぎ付けになる。
(いや・・・群がられている?捕まっ・・・どっちだ?)
「炭治郎来て!こいつ、アオイたちを攫おうとしている誘拐犯よ!!」
汐の言葉に炭治郎は瞬時に動き、地面を蹴り彼に向かって頭を振り上げた。
が、その頭突きは空を切り、炭治郎の上には支えを失ったきよがおち、すみはカナヲに抱えられるようにして地面に落ちた。
(いない!?)
炭治郎がすぐさま視線を動かすと、宇髄の大柄な体はいつのまにか門の上にあった。