第84章 鬼潜む花街<壱>
「あれ?もう朝?」
布団の上で目を開けた汐は、高い天井を見つめながら小さく呟いた。任務の疲れがたたってか、いつもよりも寝過ごしてしまったようだ。
煉獄の死から四か月。炭治郎達は蝶屋敷を本格的な拠点とし、鍛錬を行いながら合間に入る鴉からの指令に従い鬼を退治しに行っていた。
一方汐も甘露寺や伊黒からの指導を受けながら、同じように任務に赴き鬼を斬りに行っていた。
そんな生活が続き、その日の前には単独任務を終えた後、湯あみの後は直ぐに眠りに落ちてしまい、目が覚めたらこんな時間になっていたということだった。
(夢を見ていた気がするけど、なにも思い出せないわ。最近よく夢を見るけれど、覚えていないのが多すぎるのよね。疲れているのかしら)
幸い今日は甘露寺の計らいで休みをもらっていたため(伊黒にはだいぶ反対されたが)、特に何もすることがなかった汐は、気晴らしに散歩にでも行こうかと屋敷の外に出た。その時だった。
何やら蝶屋敷の方が騒がしく、言い争うような声が聞こえる。その声は汐の屋敷の方まで聞こえてきており、何かあったのは明白だった。
汐はすぐさま屋敷に戻ると、隊服に着替えて蝶屋敷へ一目散にかけた。
「ちょっとあんたたち!何やってんのよ!」
汐が怒鳴り声を上げながら突っ込むと、そこにはアオイとなほを抱えたの音柱・宇髄天元と、二人を連れて行かせまいとしているのかカナヲが二人の手を掴んで踏ん張っているところだった。
「う、汐さん!!」
「助けてください!人さらいです!!」
二人の言葉に宇髄は「うるせえな!人聞きの悪いことを言うんじゃねぇよ馬鹿ガキ!」と声を荒げた。
人さらいという言葉を聞き、汐の眼に怒りが宿り宇髄を睨みつけた。