第83章 幕間その伍:紡ぎ歌(栗花落カナヲ編)
そして翌日。
汐は午前中の稽古の後、甘露寺に許可をもらい町へと赴きラムネを買った。甘露寺の継子になったとはいえ、彼女は基本的に汐の意思を尊重してくれていた。
その心遣いに感謝し、ついでに彼女の好物の桜餅も買っておいた。
空を見ると少し黒い雲が出始めており、雨が降りそうな模様だ。
(急いだほうがよさそう)
汐はそのまま、足早に蝶屋敷へと向かった。
「こんにちは~。カナヲ、いる~?」
屋敷に向かって声をかけるが、返事はない。またこの感じかと汐は少しだけ微妙な気持ちになったが、そのまま敷地内に足を進めた。
中庭に行くと、たくさんの洗濯物をカナヲが取り込んでいるのが見えた。いつもならアオイや三人娘たちがやっているはずだが、今日にいたってはカナヲがやっており中々に珍しい光景だった。
しかしいくら身体能力が高いとはいえ、たくさんの洗濯物を抱えるカナヲは大変そうに見えた。
汐はそんなカナヲに寄り添うようにして近づくと、かかったままの洗濯物を外し始めた。
「手伝うわ。あんた一人じゃ大変そうだもの」
汐の存在に気づかなかったのか、カナヲは非常におどろた顔で彼女を見つめた。が、前回とは違い今度は逃げることは無くそのまま洗濯物を取り込んだ。