第83章 幕間その伍:紡ぎ歌(栗花落カナヲ編)
「あ、汐さん。お久しぶりです。いらしていたんですか?」
「久しぶりね、きよ。うちの師範からしのぶさんあてに荷物を届けに来たんだけど、しのぶさんは?」
汐の問いかけにきよは、しのぶは今席を外していることを告げた。
「そう。時期を間違えちゃったみたいね。それより屋敷が随分静かだけれど、男連中はどうしたの?」
「皆さんそれぞれの任務に出かけています。あの善逸さんも駄々をこねずに仕事に行くようになったんですよ」
「善逸が?いったいどういう風の吹き回しかしら。それとも、ちゃんと成長してるってことかしらね」
汐が少し皮肉を込めて言うと、きよは苦笑いを浮かべた。
「お荷物の件ですが、私がしのぶ様へ届けておきましょうか?」
「え、いいの?そうしてもらえると助かるわ」
汐は荷物をきよに渡し、帰路につこうとしたがふとカナヲのことを思い出して口を開いた。
「ねえ、カナヲって最近は何時もあんな感じなの?」
「あんな感じ、とは?」
「さっき縁側でシャボン玉を吹いてたのよ。あたしが声を掛けたら驚かせちゃったみたいで戻っちゃったけど。今まであの子、どこか遠くを見ていることが多かったから少し気になったの」
汐の言葉にきよは少しうれしそうな表情で彼女を見ながら言った。
「最近、カナヲさんはああしてシャボン玉を吹いたり、お小遣いでみんなのお菓子を買ったり、猫の肉球をぷにぷにしたり、自主的にお手伝いをしたりするようになったんです。以前はそう言ったことがなかったので、みんな驚いているんですよ」
「そうだったの。あたしがいない間に随分様変わりしたのね。って、いけない。もうこんな時間!あたしこれからみっちゃ・・・師範との稽古があるんだった!しのぶさんとみんなによろしくね!」
汐はそれだけを言うと、疾風の如く速さで蝶屋敷を後にし、きよはがんばってくださいね!と、汐の背中に声をかけるのだった。