第82章 幕間その伍:産屋敷輝哉の頼み事
「そしてこの呪いは千年前からずっと続いている。その呪いを解くには、鬼舞辻無惨を倒すことに心血を注ぐこと。だが、見ての通り千年以上たっていてもその悲願は果たせていない」
輝哉はそう言って少し視線を落としたが、すぐに顔を上げにっこりと笑顔を見せながら言った。
「でも、私はその悲願がこの時代で果たされると願っている。始まりの呼吸の剣士以来の精鋭である柱、鬼でありながら人を襲わない少女、そして――ワダツミの子。これほどまでに素晴らしいものたちがこの時代に現れたことが、何よりの奇跡だと思っているんだ」
輝哉の声が汐の耳から脳を震わせ、心を落ち着かせていく。この人の語る言葉が、汐にさらなる決意を湧き上がらせた。
だが、汐は一つの疑問が生まれそれを思わず口にした。
「あの、お館様?一つだけ聞いても、お聞きしてもよろしいですか?」
「構わないよ。何かな?」
「そんな大事なお話を、あたしなんかに話してよかったんですか?」
「うん、本当はあんまりよくないかもしれないね。このことを知っているのはごく一部の者だけだから」
輝哉のその言葉に汐は一瞬で固まると、甘露寺は慌てて「このことは決して他言いたしません」と汐の代わりに付け足した。
そんな二人を見て、輝哉は安心させるような声色で言った。
「けれど、それほどまでに君には人を惹きつけ、影響を与える力がある。君がワダツミの子であることも勿論だけれど、君自身にもその力があると私は思っている。現に君が現れたことによって変わり始めたことはたくさんある。私のようにね」
だからこそ、と彼はつづけた。
「私のかわいい剣士(こども)達。君たちの活躍を、心から期待しているよ」
その言葉を最後に謁見は終わり、彼は二人に戻るように告げた。