第82章 幕間その伍:産屋敷輝哉の頼み事
― そらにとびかう しおしぶき
ゆらりゆれるは なみのあや
いそしぎないて よびかうは
よいのやみよに いさななく
ああうたえ ああふるえ
おもひつつむは みずのあわ ―
汐の透き通るような声が部屋中に響き渡り、輝哉は勿論、甘露寺もお付きの少女たちも目を閉じ歌に聞き入る。
しかし歌が終わったはずの汐の口は、そのまま動き次の歌を奏で始めた。
― おおなみこなみ みだれゆく
つきたてらるは さめのきば
いさりびともり うみなれば
わだつみおどり うみはたつ
ああひびけ ああとどけ
おもひつたうは しおのうた ―
汐は歌いながらも、この歌に続きがあったことに驚いたが、この場所で歌を中断するわけにもいかず最後まで歌い切った。
歌い終わると、間髪入れずに拍手が響き渡った。
「素晴らしい歌をありがとう。なるほど、それが君の故郷の歌か」
輝哉は嬉しそうな表情でつぶやく様に言ったが、ふと、視線を少しだけ鋭くさせながら口を開いた。
「汐。私は何としても鬼舞辻無惨を倒したいと思っている。それは何のためかわかるかな?」
「え?えっと・・・鬼から人を守るため、ですか?」
「うん、それも間違いではないんだ。けれど、私はどうしてもその悲願を達成したい。それはね。私の過去にある」
その言葉を紡いだ瞬間、二人の少女たちが驚いたように彼を見て目を見開いた。
「汐。私の顔を初めて見たときに驚いただろう?見ての通り、私の身体は重い病に侵されている。しかし、この病は呪いであり、私の一族はこの呪いにより30まで生きられない身体となっているんだ」
「えっ!?」
思いがけない言葉に、汐は思わず息をのんで輝哉を見つめ、彼はそんな汐に構うことなく続けた。