第10章 慈しみと殺意の間<肆>
割れた滝は依然と変わらぬ音で汐を迎えている。けれど、その時だけはまるで彼女を祝福してくれているかのようだった。
「汐」
声がして振り返ると、こちらに歩いてくる鱗滝と炭治郎の姿が目に入った。炭治郎は割れたたきを見るなり目を見開き、そして汐を二度見する。
かと思いきや、次の瞬間には零れ落ちそうなほどの笑みを浮かべた。
炭治郎の眼を見て、彼も試練を乗り越えたことを悟った汐は、思わず彼の手を握る。そして喜びを分かち合った。
「汐、炭治郎。こちらに来なさい」
鱗滝に呼ばれて二人は彼の前に駆け寄る。
「まず一つ断らせてもらおう。お前達を最終選別に行かせるつもりはなかった。もう子供が死ぬのを見たくなかった。お前達にはあの試練を乗り越えることはできないと思っていたのに・・・」
――よく、頑張った
――炭治郎、汐。お前たちは、すごい子た・・・
その言葉を聞いた瞬間、二人の両目から涙が零れ落ちる。そしてまるで本当の姉弟のように、二人は彼にすがって泣き続けた。
「最終選別、二人とも必ず生きて戻れ。儂も禰豆子も、ここで待っている」