第80章 幕間その伍:柱だヨ!全員集合?(前編)
最初にやってきたのは冨岡義勇が構える屋敷。汐も彼に命を二度も救われた恩もあり、その礼をしたいということで、一番最初に赴いたのだった。
しかし残念なことに、その日はすでに任務に出かけていて彼と会うことは叶わなかった。
仕方がないので二人は、次に面識のある音柱、宇髄天元の下へ行くのだった。
「よう騒音娘。甘露寺の継子になったと派手な噂を耳にしたが、本当だったとはな。もてなしてやりてえが、生憎別の任務が入っちまってね。要件なら手短に頼む」
そう言う宇髄に汐は「誰が騒音娘よ!」と憤慨し、甘露寺は少しだけ残念そうに眉根を下げ「また伺いますね」とだけ告げた。
次に赴いたのは時透邸。汐も話だけは聞いていたが、史上最年少で柱の座についた天才的な剣術の持ち主だという。
しかし汐が最も驚いたのは、刀を握ってわずか二か月で柱になったということだった。
(14歳ってあたしよりも年下じゃない。それで柱になるって・・・化け物だわ)
汐は苦々し気に顔をしかめながら、甘露寺と共に門をたたく。すると使用人らしき者が出てきて屋敷内へと案内された。
中ではその人、時透無一郎がぼうっと空を眺めながら、縁側にたたずんでいた。
「こんにちは無一郎君。甘露寺蜜璃よ。そしてこっちが私の継子の、大海原汐ちゃん」
「ど、どうも。大海原汐です」
汐が甘露寺につられるようにしてあいさつをすると、彼は視線を向けると、「誰?」とだけ答えた。
その態度に汐は違和感を覚えた。柱合裁判があったのはかなり前。汐の事なら忘れてもおかしくはないが、同僚である甘露寺を忘れるのはいかがなものか。
困惑する汐に甘露寺は耳打ちするように答えた。
「無一郎君はね、物事を覚えておくことが少しだけ苦手みたいなの。でも悪い子じゃないし、柱としてもすごい子だから仲良くしてあげてね」
仲良くといっても向こうはその気は一切なさそうだし、それに彼の眼には自分たちなど映っておらず、何を映しているのかすら汐にはわからなかった。