第80章 幕間その伍:柱だヨ!全員集合?(前編)
「はい、今日の稽古はおしまい。お疲れ様」
「え?今日のって、まだ午前中だけど、あ、いや、午前中ですよ、師範」
汐が困惑した表情で言うと、甘露寺は首を横に振って人差し指を汐の唇に当てた。
「稽古が終わった時はなんて呼ぶんだったかしら?」
甘露寺の言葉に汐は微かに頬を染めると、おずおずと口を開いた。
「みっ、みっ・・・ちゃん・・・」
「はい!よくできました、しおちゃん!」
汐の声に、甘露寺は満足そうに笑うと、そっと汐の頭をなでた。
甘露寺の継子となった汐に、甘露寺はとある規則を決めた。規則と言っても堅苦しいものではない。
稽古をつけているとき以外は、敬語を使わず友人のように接してほしいということ。そして甘露寺の熱烈な頼みで、互いを愛称で呼び合うということを決めた。
今まで愛称で呼ばれることも呼んだこともない汐は困惑したが、呼ぶたびに甘露寺が本当にうれしそうな眼をするので、最近は悪くないなと思い始めてきたところだった。
「で、みっちゃん。どうして今日は午前中で稽古を終わらせたの?何か用事?」
汐が尋ねると、甘露寺はウキウキした表情で汐に向き直ると、その両手を握って高らかに言い放った。
「あなたを柱のみんなにきちんと紹介したいの。だから午後の時間は柱のみんなのお屋敷を回ってご挨拶に行こうと思って」
「へぇ、挨拶に・・・って、柱に!?」
思わぬ提案に、汐は思わずのけ反りながら叫んだ。
しのぶや義勇など、知っている柱ならまだしも、そのほかの柱とはほとんど面識がない。ワダツミの子の情報を持ってきた宇髄でさえそれ程親しいわけでもない。
それに汐は、柱合会議で柱の前で堂々と啖呵を切っているため、顔を合わせづらいというのもあった。
顔を引き攣らせる汐に構うことなく、甘露寺はウキウキとした様子で準備をはじめ、汐はそれを見ながらため息を一つついた。
(みっちゃん、張り切っているわね。まさかとは思うけど、あたしを継子に迎えたことを自慢したいだけだったりして)
汐の陰鬱な気持ちとは裏腹に、準備は着実に整っていくのだった。