第79章 幕間その伍:合縁奇縁
宴が終わり、汐は荷造りが済んだ自分の部屋に戻ると大きなため息をついた。
明日からはここを出て甘露寺邸で暮らすことになる。そのため、炭治郎達と会える時間もあとわずかだった。
(炭治郎・・・あの時ずっと上の空だったけれど、あたしが継子になることを本当はうれしくなかったのかな)
いいやそんなはずはないと、汐は思った。現に、初めて打ち明けた時彼は本当にうれしそうな眼をしていた。それなのに、先ほどの宴ではそうではなかった。
何かあったのかと気になりだした汐は、意を決して部屋を出て炭治郎の部屋へと向かった。
「炭治郎、ちょっといい?」
汐は扉を叩いて声をかけ、返事を待った。するとすぐに炭治郎が慌てた様子で扉を開けたため、ほっとしたと同時に少しだけたじろいだ。
「汐、どうしたんだ?明日はもう出発だろう?」
「あ、うん。そうなんだけれど・・・、あんたと少し話したくて。駄目?」
そう言って炭治郎を見上げれば、彼は少しだけ困ったような顔をしたが小さくうなずいて汐を部屋の中へ通した。
「ごめんね、こんな時間に。もう寝るところだった?」
「・・・いいや。何だか今日は眠れなくて。宴の余韻のせいかな」
そう言って力なく笑う炭治郎に、汐は彼がこんな嘘をついてることに驚いた。
否、嘘というよりは自分の気持ちに気づいていない。そんな感じだった。
「嘘ね。本当は違う。あんた、宴の時あんまり楽しそうじゃなかったもの」
「そんなこと・・・」
「無いわけないわ。何年あんたと一緒にいると思ってるの。それぐらいお見通しよ。何?まさかあたしがここを出るから寂しくなっちゃったとか?」
汐はからかうようにそう言ってから、お道化たように炭治郎を見ると、彼はこれ以上ない程の真剣な表情で汐を見つめていた。
その顔に汐の顔からみるみるうちに笑顔が消えていく。
「当り前だろう!」
「た、炭治郎・・・?」
「ずっと一緒にいた、毎日会えていた人に会えなくなるんだ。寂しくないわけがない」
炭治郎の声色に、汐は声を失ったままその眼を見つめた。一切の曇りも迷いもない、真剣そのものの視線にくぎ付けになる。
それと同時に、炭治郎が自分に会えなくなる寂しさを感じてくれていたことに、少しだけ嬉しさを感じた。