第78章 幕間その伍:さがしものとわすれもの
猗窩座が去ったのを確認すると、無惨はそのまま手を止め目だけを動かして静かに口を開いた。
「それで、お前はいったい何をしにあの場所に赴いた?黒死牟」
彼の視線の先には、大正時代では珍しい古風な着物を纏った、六つの目を持つ恐ろしい姿をした鬼がいた。
黒死牟と呼ばれた鬼は無惨からの問いかけには答えなかったが、無惨はそれに構うことなく続けた。
「私はお前にも青い彼岸花の捜索とワダツミの子の始末を命じたつもりだったが・・・どうやら私はお前を買いかぶりすぎていたようだな。まさかお前が命に背くとは。あのような小娘一人を屠るなど、お前ならば赤子の手をひねる様なものだと思っていたのだが」
「申し訳・・・ございません。邪魔が・・・入りまして・・・」
「邪魔?あの程度の柱など、お前の敵ではないだろう。現に猗窩座如きでさえ始末できたほどだ」
無惨は本を手に取りもてあそびながらも、淡々と黒死牟に言葉の棘を刺し続けた。
「・・・まさかとは思うが、お前。未だ【あの女】に未練があるのか?」
その言葉に黒死牟の肩がほんのわずかに揺れ、それに気づいた無惨は呆れたように言った。
「たかだか数百年ほどの間に、記憶まで置き去りにしてきたのか?そもそも【あの女】を殺したのは他でもない、お前だろうに。くだらない幻などにいつまでも踊らされるな」
無惨はそれだけを言うと、黒死牟にも下がるように言った。彼が去った後、無惨は静かに揺れている帳を眺め、鋭く目を細めた。
「どいつもこいつも、役に立たない者達ばかりだ・・・」
その言葉は風に乗り、夜の闇へを消えていった。