第78章 幕間その伍:さがしものとわすれもの
無惨の元を離れた黒死牟は、一人世闇の中で佇んでいた。目を閉じ、先ほどの無残の言葉を思い出す。
(未練・・・返す言葉もなかった・・・忘れていたと思っていたが・・・私は未だ・・・あの娘を・・・)
怒り狂う無惨の顔の中に、微かに見えるのは邂逅した鬼狩りとなったワダツミの子。そして彼女と同じように真っ青な髪をした、記憶の中に残る一人の女性。
『――様!』
屈託のない笑顔で知らない名を呼ぶその女性の顔を思い出そうとした瞬間、黒死牟の頭に強烈な痛みが走った。そしてそれは波紋のように全身に広がっていく。
そして彼の頭の中に、透き通るような歌声が響き渡る。
(嗚呼。お前は死して尚も・・・私を・・・掻き乱し続ける・・・のか・・・。ワダツミの子・・・、――。本当に・・・忌々しい・・・)
やがて痛みは治まり、黒死牟は月明かりの中を静かに歩きだした。まとわりつく不可思議なものを振り払うように。
(そう言えば・・・童磨が以前・・・玉壺に・・・人形を預けたと・・・言っていたが・・・あれは確か・・・)
そんなことを考えていた黒死牟だが、ふと我に返り視線を下へと下ろした。いつもなら全く気にならないはずのことに、今日は何故かいろいろと思考が飛散してしまう。
その微かな不調に少しばかりと毎度いながらも、黒死牟は静かに闇の中へ消えていくのだった。
猗窩座が炭治郎の刀を粉々に破壊し、彼と自分を罵倒したワダツミの子への憎しみを募らせるのは、そのすぐあと。