第77章 誇り高き者へ<肆>
その後、千寿郎は破れていた書物を修復すると炭治郎と約束し、それから煉獄が使っていた刀の鍔を炭治郎に渡した。
炭治郎ははじめ受け取ることを拒んでいたが、千寿郎は炭治郎に持っていてほしいと言ったため、彼はその提案を受け入れた。
きっと炭治郎を守ってくれると。
蝶屋敷へ戻る道すがら、汐は炭治郎と言葉を交わしていた。
「あーあ。戻ったらきっとしのぶさんにぶっ殺されるわね、あたし達」
「それはないだろう。命を預かっている場所だ。精々叱られるくらいだろ」
「あんた頭は正気?あれがどれほど恐ろしいか忘れちゃったわけ?」
そう言って顔を引き攣らせる汐だが、ある道に差し掛かると足を止めていった。
「炭治郎。先に帰っててくれる?」
「急にどうしたんだ?」
「あたし野暮用があるって言ったわよね。それを済ませてきたいのよ。大丈夫、すぐに戻るから」
そう言う汐からは嘘の匂いはしなかったが、炭治郎は何故か汐がどこかへ行ってしまうような気がした。
「そんな眼をしないでよ。本当に大丈夫だって。あたしは隠し事はするけれど、嘘は苦手なのよ。ほら、さっさと行った行った」
炭治郎を無理やり蝶屋敷への道へ押し出すと、汐は一人曲がり角を曲がっていく。そんな彼女の背中に、炭治郎は声をかけた。
「雨の匂いがする。早めに戻ってくるんだぞ!」
炭治郎の言葉に、汐は振り返らないまま手を振り返すのだった。