第77章 誇り高き者へ<肆>
「ん・・・?ここは・・・?」
うっすら目を開けると、見覚えのない天井がぼんやりとした視界の中映ってくる。ここは何処だろうと思っていると、人の気配を感じ頭を動かした。
「気が付かれましたか。よかった」
そこには心配そうに自分を覗き込む千寿郎の姿があった。汐はゆっくりと体を起こすが、走った痛みに顔をしかめる。
「動いては駄目です。あなたも深い傷を負っていたんですね。それなのに無茶をさせてしまって・・・」
「いいのよ別に。それより、炭治郎は?」
「別室にいらっしゃいます。手記をご覧になっていますよ。ですが、書物は破れていて何とか読めるところを探している最中ですが・・・」
「そう、あいつも無事なのね。よかったわ。まあ、炭治郎があの程度でどうにかなるとは思わないけど」
汐は笑いながらお道化たように言うと、千寿郎は突然、畳に頭をこすりつけた。
「申し訳ありません!!気が付かなかったとはいえ、女性に手を上げるなんてなんてことを・・・!!申し訳ありません!!申し訳・・・!!」
そう叫びながら土下座をする千寿郎は、かわいそうなほど震えている。そんな彼を見て汐は小さく息をつくと、優しい声色で言った。
「顔を上げて。あんたはこれっぽっちも悪くないわ。それに、おやっさん、あたしの父親の拳の方がずっと重くて痛いわよ!こんなの平気平気。それより、あたしも謝らないとね。息子亡くして頭ぐちゃぐちゃになっているときに来るなんて、あたし達も配慮が足りなかったし、それにあんたの親父さんの事をボロクソに言っちゃったし・・・」
ごめんなさいね、と千寿郎に言うと彼は顔を上げて首を横に振った。
「あ、それより。あの人はどうしたの?覚えてるかぎり、あたしあの人を吹っ飛ばしちゃったんだけど・・・」
「父なら大丈夫です。先ほど炭治郎さんの頭突きを受けて気を失っていましたが、目を覚ましてお酒を買いに出て行ったので」
「あ、そう。あれを受けて動けるなんて、流石元柱ね」
人間やめてるんじゃないの?と汐は言いかけたが、ことが面倒になりそうだったのであきらめた。