第77章 誇り高き者へ<肆>
「煉獄杏寿郎さんの訃報はお聞きでしょうか?俺たちは杏寿郎さんからお父上と千寿朗さんへの言葉を預かりましたので・・・お伝えに参りました」
炭治郎の言葉に千寿郎は目を見開くと、その顔から冷たい汗が滴り落ちた。
「兄から?兄の事は既に承知しておりますが・・・あの、大丈夫ですか?お二人とも、顔が真っ青ですよ」
「あたしたちのことは大丈夫。それよりも煉獄、杏寿郎さんは・・・」
汐がその先を紡ごうとしたその時、空気を引き裂くような声が響いた。
「やめろ!!どうせくだらんことを言い残しているんだろう」
その声に驚いて視線を向けると、そこには一人の男が玄関に寄りかかるようにして立っていた。
煉獄とよく似た顔立ちの中年の男だ。浴衣姿で手には酒瓶。一目で酔っ払っていると分かる風体だった。おそらく彼が、煉獄の言っていた父親、煉獄槇寿郎だろう。
「大した才能もないのに、剣士になるからだ!だから、死ぬんだ!くだらない・・・愚かな息子だ、杏寿郎は!」
「・・・は?」
槇寿郎の言葉に、汐は思わず声を上げた。今、この男はなんていった?くだらない?愚か?自分の息子に?
それは炭治郎も同じで、その表情を歪ませていた。
「人間の能力は、生れた時から決まってる。才能のある者は極一部。後は有象無象、何の価値もない塵芥だ!杏寿郎もそうだ。大した才能がなかった!死ぬに決まってるだろう」
槇寿郎は酒瓶を煽りながら、悲し気に目を伏せる千寿郎へ声を飛ばした。
「千寿郎!葬式は終わったんだ!いつまでもしみったれた顔をするな!」
「ちょっと!!」
あまりの言い草に、炭治郎は怒りを眼に宿しながら槇寿郎を睨みつけて言った。