第77章 誇り高き者へ<肆>
屋敷を抜け出した炭治郎は、痛みをこらえながらある場所へ向かっていた。
それは、煉獄が死ぬ間際に言い残した、生家と炎柱の残した手記の事。それに、煉獄の最期の言葉を家族に伝えるためだ。
だが、腹の傷はそんな彼を前に進ませまいと疼き、体力を奪っていく。そして足がもつれ倒れこみそうになった時、不意に体が浮いた。
「もう、水臭いわよ。一人で勝手に行くなんて」
聞きなれた声が耳に入り顔を上げると、真っ青な色と赤い色が目に入った。そこには汐が微笑みながら、炭治郎の肩を支えていた。
「汐!?お前、どうしてここに・・・?絶対安静だって言ったじゃないか」
「その言葉、そっくりそのままあんたにぶち込むわよ。自分の今の状況もわかんない程馬鹿になったわけ?」
いつも以上に辛辣な汐に、炭治郎は視線を逸らしうつむいた。そんな彼を見て、汐はため息をつくと炭治郎の身体を引き上げた。
「ほら、しっかり。行くんでしょ?煉獄さんの家に。あんたの考えてることなんてお見通しよ。それに、あたしもあんたと一緒にあの人の最期の言葉を聞いた。だからあたしも、行く義務がある。それに、もう一つ野暮用があるのよ」
汐の凛とした声に、炭治郎の目が震え胸が熱くなった。炭治郎はそうだといわんばかりに小さくうなずくと、汐の肩を借りて立ち上がった。
空には煉獄の鎹鴉がおり、彼の意をくんで道案内をしてくれていた。二人はそれを見失わないように、必死で後を追った。
やがて二人の目に大きな家が映り、その前には一人の少年が箒をもって掃き掃除をしていた。
その顔を見て汐は直ぐにわかった。その顔があまりにも煉獄によく似ていたからだ。彼が、煉獄の弟、千寿郎だと。
「千寿郎、君?」
炭治郎が声をかけると、千寿郎ははっとした表情で顔を上げこちらを見た。泣きはらしたような眼が、汐の心を締め付ける。
「貴方方は・・・、それに、その隊服は・・・」
汐と炭治郎は千寿郎に頭を下げると、すぐに話を切り出した。