第10章 慈しみと殺意の間<肆>
「・・・は?」
思わぬ課題に、汐は素っ頓狂な声を上げる。
(滝を割れって何?滝って割れるもの?刀で?いやいやいや、意味が分かんない。おやっさんも意味わかんないこと言ってたけれど、この人もかなり意味が分からないんだけど・・・)
混乱する頭をよそに、それから鱗滝は二人に何も教えてくれることはなかった。
それから二人の更なる戦いが始まった。
二人はまずは基礎訓練を繰り返し、時には二人で組手をし、互いの情報交換をしながらもその試練に挑んだ。
しかし半年たっても二人は試練を乗り越えることはできなかった。二人は焦った。どうしようもなく。
そしてある日、
「ああああああああああああああああ!!!!!」
その焦りがやがて怒りへと変わり、とうとう汐は大爆発を起こした。
「滝割なんて人間にできるかボケェ!!意味が分かんねーわよいい加減にしろ!!」
汐のよく通る声が山中に響き渡り、驚いた鳥や獣たちがが一斉に逃げ出す。それでもしばらく汐の絶叫は止まらない。
その焦りのせいか前が見えていなかった汐は、足を滑らせ滝つぼの中に落ちてしまった。
想像以上に体にかかる水圧と、海水とは違い浮きづらい水。そしてきちんと呼吸ができていなかったためうまく泳ぐことができず苦しげにもがく。
水面からわずかに漏れる光がひどく美しく、そしてひどく残酷に見えた。
まるで今の愚かな自分を嗤っているような、そんな気がした。
でも
その脳裏にに浮かんだのは、夕暮れの海のような目をした彼の顔。そして
不意に、自分の手を誰かがつかんだ。