第76章 誇り高き者へ<参>
――泣くな、汐。胸を張れ。前を見ろ。そして、最後まで足掻け――
「己の弱さや不甲斐なさに、どれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ。歯をくいしばって前を向け。君達が足を止めて蹲っても、時間の流れは止まってくれない。共に寄り添って悲しんではくれない」
煉獄の言葉を、汐は拳を握りながら聞いていた。その姿に、玄海の姿を重ねながら。
(嗚呼この人は・・・この人も、同じことを言うんだ。あたしがこの世で最も誇り高いと思っていた人と、同じことを・・・)
「俺が死ぬことは気にするな。柱ならば後輩の盾となるのは当然だ。柱であれば、誰であっても同じことをする。若い芽は摘ませない」
煉獄の命が地面をゆっくりと染めていく中、煉獄は涙を流す炭治郎達を一人一人見ながら静かに言った。
「竈門少年。猪頭少年。黄色い少年。もっともっと成長しろ。そして今度は君たちが、鬼殺隊を支える柱となるのだ」
それから煉獄は汐に視線を向けると、少し悲しそうに眉根を下げた。
「それから大海原少女。俺は君に二つ、謝らなければならない。一つは、君の性別を間違えてしまっていたこと。本当にすまなかった。そして、もう一つ。君との約束を果たせなくなってしまった事。本当に、すまなかった」
「約束・・・?あっ」
煉獄の言葉を聞いて、汐はこの列車で彼に初めて会ったときに捲し立てられたことを思い出した。
――もしも君さえよければ、俺にあの時練習していた歌を最後まで聴かせてくれないか?――
汐はそのまま黙って俯いたかと思えば、そのまま膝を震わせながら立ち上がった。そして煉獄から背を向け少し離れると、振り返る。
その行動に煉獄をはじめ皆が怪訝そうな表情を浮かべる中、汐は大きく息を吸い口を開いた。