第76章 誇り高き者へ<参>
「こっちにおいで。最後に少し、話をしよう。大海原少女も前に来てくれないか?」
最後という言葉を聞いて、汐は肩を震わせた。最後なんて言わないで。そんな言葉聞きたくない。
しかし汐の目から見ても、煉獄の傷は致命傷であることは明白だった。おそらく呼吸で止血しても無駄だろう。
そのことを先に理解してしまった事を、汐は心の底から恨んだ。
汐と炭治郎は煉獄の前に座り、その顔を見据えた。流れ出す真紅の雫が、煉獄の身体を少しずつ赤に染めていく。
「思い出したことがあるんだ。昔の夢を見た時に」
そう言って煉獄が語ったことは、煉獄の生家に歴代の炎柱が残した手記があり、彼の父親がそれをよく読んでいたという。
煉獄自身は読まなかったため内容はわからないが、炭治郎の『ヒノカミ神楽』について何かわかるかもしれないと語った。
「煉、煉獄さん・・・もういいですから、呼吸で止血してください・・・傷を塞ぐ方法は無いですか?」
「無い。俺はもうすぐ死ぬ。喋れるうちに喋ってしまうから聞いてくれ。弟の千寿郎には自分の心のまま、正しい道を進んでほしいと伝えてくれ。父には体を大切にして欲しいと。それから――竈門少年。俺は君の妹を信じる、鬼殺隊の一員として認める」
煉獄の言葉に、炭治郎は目を見開き煉獄を見つめた。
「汽車の中であの少女が、血を流しながら人間を守るのを見た。命を懸けて鬼と戦い人を守る者は、誰がなんと言おうと鬼殺隊の一員だ――」
――胸を張って生きろ。
「!!」
煉獄の言葉に、今度は汐は目を見開いた。それはかつて。自分を育ててくれた養父、玄海の言葉とよく似ていた。