第76章 誇り高き者へ<参>
崩れ落ちる煉獄の身体を汐が受け止め、その眼前を猗窩座は通り過ぎていく。
(早く陽光の影になるところへ・・・!!)
しかしそんな猗窩座を逃がすまいと、炭治郎は腕を大きく振りかぶり自らの刀を彼に向かって投げつけた。
(手こずった。早く太陽から距離を・・・)
「!!」
逃げる猗窩座の背中に炭治郎の刀が命中し、漆黒の刀身が彼の胸を貫いた。
――ウタカタ 参ノ旋律――
――束縛歌!!
汐も負けじと歌を放ち、猗窩座の身体を拘束するが、彼はそれを無理やり振りほどくとそのまま走り去っていく。
そんな猗窩座の背中に、汐は殺意と憎悪を込めて叫んだ。
「クソッタレェエエエ!!!ふざけてんじゃねぇええ!!戻ってきやがれ腑抜け野郎!!!」
そしてそれに合わせるように、炭治郎も大声で叫んだ。
「逃げるな卑怯者!!逃げるなぁ!!」
二人から浴びせられた罵倒に、猗窩座は青筋を立てながら思わず立ち止まりそうになった。
(何を言ってるんだあのガキ共は。脳味噌が頭に詰まってないのか? 俺は鬼殺隊(おまえら)から逃げてるんじゃない。太陽から逃げてるんだ!それにもう勝負はついてるだろうが!アイツは間も無く力尽きて死ぬ!!)
「いつだって鬼殺隊は、お前らに有利な夜の闇の中で戦ってるんだ!!生身の人間がだ!!傷だって簡単に塞がらない!!失った手足が戻ることもない!!逃げるな馬鹿野郎!!馬鹿野郎!!卑怯者!!」
いつもの炭治郎なら絶対に口にしない言葉で、彼はひたすら猗窩座を罵った。それを受け、汐も負けじとその背中に罵声を浴びせる。
「テメエなんざ煉獄さんの足元にも及ばない!!煉獄さんの強さを踏みにじるな!!侮辱するな下衆野郎!!」
「お前なんかより、煉獄さんの方がずっと凄いんだ!!強いんだ!!煉獄さんは負けてない!!誰も死なせなかった!!戦い抜いた!!守り抜いた!!お前の負けだ、煉獄さんの勝ちだ!!」