第76章 誇り高き者へ<参>
煉獄は猗窩座を押さえつけたまま、さらに刀を食い込ませる。猗窩座は、白みだした空を見上げて焦燥を露にした。
(夜が明ける!!ここには陽光が差す・・・!!逃げなければ、逃げなければ!!)
一方炭治郎は、無理やり体を動かすとそばに落ちていた日輪刀を拾うと二人に向かって一目散に駆けた。
(斬らなければ!!鬼の頸を!早く!!)
炭治郎は痛みをこらえながら、鬼に向かって刀を振ろうとしたその時だった。
オオオオオオオ!!
猗窩座は大地を揺るがすような咆哮を上げ、炭治郎は思わず耳を塞いで立ち止まった。猗窩座は何とか煉獄を振りほどこうと、必死で藻掻く。
(絶対に放さん。お前の頸を斬り落とすまでは!!)
オオオオオオオッ
あああああああ!!!
「退けええええ!」
二つの獣の咆哮が響き、煉獄の刀が猗窩座の頸の半分まで到達した。
「伊之助、汐動けーーーーっ!!」
その時、炭治郎の声が辺りに木霊し、汐と炭治郎は肩を震わせた。
「煉獄さんのために動けーーーーーーーっ!」
汐は弾かれた様に立ち上がり、伊之助はそのまま刀を構えたまま二人の方へ弾丸のように突っ込んだ。
――獣の呼吸 壱ノ牙――
――穿ち抜き・・・
――海の呼吸 壱ノ型――
――潮飛沫・・・
伊之助と汐の刀が猗窩座に届く寸前、彼は地面が抉れるほど足を踏み下ろすとそのままはるか上空へ飛びのいた。
自ら両手を引き千切り、頸には煉獄の刀身が食い込んだまま、猗窩座はそのまま踵を返した。
崩れ落ちる煉獄の身体を汐が受け止め、その眼前を猗窩座は通り過ぎていく。
(早く陽光の影になるところへ・・・!!)
しかしそんな猗窩座を逃がすまいと、炭治郎は腕を大きく振りかぶり自らの刀を彼に向かって投げつけた。
(手こずった。早く太陽から距離を・・・)
「!!」
逃げる猗窩座の背中に炭治郎の刀が命中し、漆黒の刀身が彼の胸を貫いた。
――ウタカタ 参ノ旋律――
――束縛歌!!
汐も負けじと歌を放ち、猗窩座の身体を拘束するが、彼はそれを無理やり振りほどくとそのまま走り去っていく。
そんな猗窩座の背中に、汐は殺意と憎悪を込めて叫んだ。