第75章 誇り高き者へ<弐>
「杏寿郎」
「はい、母上」
母の声に、煉獄は凛とした声で返事をした。彼の傍らには、弟である千寿郎があどけない顔で寝息を立てていた。
「よく考えるのです、母が今から聞くことを。なぜ自分が人より強く生まれたのか、分かりますか?」
母の言葉に煉獄は必死で考えるが、答えが出なかった彼は素直にわからないと答えた。
「弱き人を助けるためです。生まれついて人よりも多くの才に恵まれた者は、その力を世のため人のために使わねばなりません。天から賜りし力で、人を傷つけること、私腹を肥やすことは許されません。弱き人を助けることは、強く生まれた者の責務です、責任を持って果たさなければならない使命なのです。決して忘れることなきように」
「はい!!」
母の優しく凛としたその言葉に、煉獄は力強く返事をした。
そんな彼に彼女はゆっくりを腕を伸ばし、その小さな体を優しく抱きしめた。
「私はもう、長く生きられません。強く優しい子の母になれて、幸せでした。あとは・・・頼みます」
母の目から涙があふれ出し、煉獄の額にぽろぽろと零れ落ちた。幼い彼にはその涙の意味がその時は理解できなかった。
しかし、今は――