第75章 誇り高き者へ<弐>
煉獄は刀を握る手に力を込めた。欠陥が浮き出すほどの凄まじい力に、柄がギリギリと音を立てる。
そしてそのまま彼は、猗窩座の頸めがけて刃を振るった。
傷口から真っ赤な鮮血があふれ出し、刃を濡らしていく。煉獄の気迫に、流石の猗窩座も驚愕に目を見開いた。
(この男、まだ刃を振るのか!!)
煉獄は最後の力を振り絞り、刃を食い込ませ続けた。
(母上、俺の方こそ貴女のような人に生んでもらえて光栄だった!)
「オオオオオオオオオオオオ!!!!」
煉獄の獣のような咆哮が響き渡り、刃がさらに頸へを食い込んだ。それを見て、猗窩座の顔が初めて青ざめた。
このままでは危ないと踏んだ猗窩座は、煉獄の頭部を砕こうと再生した片腕を振り上げた。
しかし、煉獄はもう一方の手でそれをしっかりとつかんで阻止する。
(止めた!! 信じられない力だ!!急所(みぞおち)に俺の右腕が貫通してるんだぞ!)
驚愕をその表情に張り付けていた猗窩座だが、その時視界が急に明るくなり始めた。視線を動かせば、山の間からうっすらと太陽が見え始めていた。
(しまった、夜明けが近い!!早く殺してこの場から去らなければ・・・)
焦りを感じた猗窩座は何とか振りほどこうとするが、煉獄は腕をしっかりつかんだまま離さない。
既に致命傷を負った人間の出せる力ではなかった。
(逃がさない)
煉獄のその眼には、柱としての責務と、鬼を屠る執念がはっきりと宿っていた。