第75章 誇り高き者へ<弐>
「俺は俺の責務を全うする!!ここにいるものは、誰も死なせない!!」
煉獄は声高々に叫ぶと、刀を両手にしっかりと持ち振り上げるようにして構えた。
もう彼の身体は限界に近く、刀を握る手も微かに震えていた。しかし、今ここで自分が倒れてしまえば、乗客は勿論、汐達の命も危ない。
だからこそ、次の一手で決着を付けねばならない。
(一瞬で、多くの面積を根こそぎえぐり斬る!!)
――炎の呼吸 奥義――
煉獄はすべての力を刀に乗せるように、しっかりと大地を踏みしめた。その闘気が波状となり猗窩座の全身を震わせる。
「素晴らしい闘気だ。それ程の傷を負いながら、その気迫、その精神力、一部の隙もない構え。やはりお前は鬼になれ杏寿郎!俺と永遠に戦い続けよう!」
猗窩座はこれ以上ない程の笑みを浮かべると、彼の闘気に答えるように身体を沈ませた。
――術式展開――
――破壊殺・滅式
――玖ノ型・煉獄!!
二つの技がまるで二匹の獣のように牙をむき、互いにぶつかり合う。先ほどまでとは比べ物にならない程の衝撃と土煙が上がり、三人は思わず目を固く閉じた。
そして土煙が収まり、静寂が少しずつ戻ってくる。そして三人の目に映ったのは――
頭部を抉り取られ、片腕が落とされた猗窩座と、そして。
彼の反対側の腕が煉獄の腹部を貫いていた。
「あ・・・・」
それを見た瞬間、汐の口から声が漏れた。
(あれは駄目だ。駄目な奴だ。あのままでは煉獄さんが死んでしまう。鬼を殺さなければ。早く、あいつを殺さなくては・・・!!煉獄さんが・・・!!)
汐はその光景を凝視したまま、無意識に口を開いた。その時、彼女の首につけられていた首輪が反応し、汐の首を絞めつけた。
しかし彼女はそれに構うことなく、息を吸おうと試みる。息苦しさも何も感じず、頭の中にあるのは目の前の鬼を殺すことだけ。
その異変は、汐の無意識領域にも起こっていた。
汐の殺意を封じている扉の鍵が一つ、砕けて落ちたのだ。
『・・・・』
番人はその様子を、真剣な表情で眺めていた。