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【鬼滅の刃】ウタカタノ花

第9章 慈しみと殺意の間<参>


時間がたち、落ち着いた汐は涙を拭いて炭治郎を見つめる。
「ごめんね、みっともないところを見せちゃって。だけど、だいぶ落ち着いたみたい。本当にありがとう」
「いいんだ、そんなことは。汐の心が少しでも軽くなったなら、俺もうれしいから」

屈託なく笑う炭治郎に、汐は少し困惑した表情を浮かべる。あったばかりだというのに、自分の浅ましい想いをぶちまけてしまった。
しかも嫌な顔一つせずに、そばにいてくれた。これほどまでに優しい人に汐はあったことがなかった。
こんな綺麗な眼をする人が守ろうとするものは、いったいどれほどのものなんだろうか。
その時の汐には、まだ知る由もなかった。

「さて、もうそろそろ寝ようか。もう夜中だし、明日も早いから」
「そうだね」
二人は顔を見合わせると、小屋に向かって歩き出す。

「汐」
扉に手をかけようとする汐を、炭治郎が呼び止める。
振り返ると、彼は右手をこちらに出している。
「俺もまだまだ未熟者だけど、同じ鬼殺の剣士を目指す者同士、頑張ろう」

差し出された右手に、汐も同じく右手を差し出す。

「こちらこそ、不束者ですがどうかよろしく、炭治郎」
「それは何か違う気がするけれど、こちらこそよろしく」
二人の手はしっかりと重なり、互いに強く握る。気が付けば汐の顔には笑顔が浮かび、そして優しい潮の香りが炭治郎の鼻をくすぐった。

(ああ、これが汐の、彼女の本当の『匂い』なんだ)

そこにはもう、今まで感じたような憎しみと痛みの匂いはなかった。
月だけが、そんな拙い二人を優しく照らしていた。
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