第74章 誇り高き者へ<壱>
その鬼を見た瞬間、炭治郎の心臓が跳ね上がった。その鬼の両目に刻まれていたのは、『上弦・参』の文字。
(上弦の・・・参?どうして、今ここに・・・)
炭治郎が考える間もなく、鬼は一直線に炭治郎と気を失っている汐に向かって拳を振り上げた。
――炎の呼吸 弐ノ型――
昇り炎天
煉獄がすぐさま動き、炭治郎達の間に入ると、鬼に向かって刀を振り上げた。その刃は鬼の左腕を真っ二つに切り裂く。
鬼は目を見開くと、凄まじい速さで距離をとった。その一瞬の出来事に、炭治郎の心臓がうるさい程鳴り響き、全身から冷や汗が吹き出した。
煉獄がいなければ、あの一瞬で汐と炭治郎は頭部を砕かれて絶命していただろう。その恐怖がよみがえり、炭治郎は無意識に汐の手を握った。
一方鬼は、自分の攻撃を防ぎあまつ反撃すらしてきた煉獄を見据えて笑みを浮かべた。先ほど切り裂かれた腕は、張り付く様に閉じられ傷跡すらほとんど残っていなかった。
「いい刀だ」
鬼は流れ出ていた血を舐めとりながら、不気味な笑みを浮かべて言った。その再生速度と圧迫感、そして鬼気に流石の煉獄もその凄まじさに表情を引き締めた。
「なぜ手負いの者から狙うのか。理解できない」
「話の邪魔になるかと思った。俺とお前の」
煉獄の言葉に鬼はそう言い放つと、煉獄は眉をひそめて静かに言った。
「君と俺が何の話をする? 初対面だが、俺はすでに君のことが嫌いだ」
煉獄は明確な拒絶と嫌悪感を隠そうともせず鬼に言い放つが、鬼はそれに臆することもなく淡々と言葉を紡いだ。
「そうか。俺も弱い人間が大嫌いだ。弱者を見てると虫酸が走る」
「俺と君とでは物事の価値基準が違うようだ」
いつもの煉獄らしからぬ、冷たく淡々とした言葉が鬼を穿つが、鬼は口元に笑みを浮かべて言った。
「そうか、では素晴らしい提案をしよう」
――お前も鬼にならないか?