第74章 誇り高き者へ<壱>
(体が崩壊する。再生できない・・・負けたのか?死ぬのか?俺が?馬鹿な・・・馬鹿な!!俺は全力を出せていない!!)
魘夢の企みは、汽車と一体化し中の多くの人間を一度に食らうこと。そのために時間をかけ、姿まで捨てたというのに、人間を一人も食らうことができなかった。
(アイツだ!!アイツのせいだ!!三百人も人質を取っていたようなものなのに、それでも押された。抑えられた。これが柱の力・・・)
魘夢の脳裏に刀を構え、全身から闘気を吹き出させる煉獄の姿が浮かぶ。そして次に浮かぶのは、目を閉じたまま恐ろしい速さで肉片を斬る善逸の姿。
(アイツ・・・アイツも速かった。術を解ききれて無かったくせに・・・!!)
その後に浮かぶのは、鬼でありながら人を守る口枷をした少女、禰豆子。
(しかもあの娘、鬼じゃないか。なんなんだ。鬼狩りに与する鬼なんて、どうして無惨様に殺されないんだ。くそォ、くそォ!!)
悔しさのあまり全身を震わせる魘夢の脳裏に、敵である彼らが浮かんでは消えていく。そして次に浮かんだのは、炭治郎と汐の姿。
(そもそも、あの耳飾りのガキと青髪のイカれた女に術を破られてからがケチの付け始めだ。特にあの女の声は何なんだ。気持ち悪い。人間じゃない。あいつらが悪い!!あいつらだけでも殺したい何とか・・・!!そうだ、あの猪も。あのガキだけなら殺せたんだ。あの猪が邪魔をした。並外れて勘が鋭い。視線に敏感だった。負けるのか、死ぬのかァ・・・!!ああああ、悪夢だああああ、悪夢だあああ!!)
薄れていく意識の中、魘夢は呪詛の言葉を吐き続けた。鬼狩りに狩られるのは、いつも底辺の鬼たちだ。
上弦。ここ百年余り顔触れが変わらず、人を山ほどくらい、柱ですら屠っている。
無惨にあれだけ血を与えられても、魘夢は上弦に及ばなかった。
(ああああ、やり直したい、やり直したい。なんというみじめな、悪夢・・・だ・・・)
その言葉を最後に、魘夢は完全にこと切れ灰になって消えていった。その呪詛の言葉は誰の耳にも心にも届くことはなかった。