第74章 誇り高き者へ<壱>
衝撃が収まり、あたりに静けさが戻ってくると、煉獄は汐を抱えたままゆっくりと体を起こした。
皮肉なことに、鬼の肉片が衝撃を吸収したせいか、多少の痛みはあるものの、動くことに支障はない。
「大海原少女、無事か!?」
煉獄は腕の中にいる汐に声をかけるが、彼女からの返事ない。もしや何かあったのかと思い、煉獄はすぐさま首筋に触れて脈を確認した。
気を失っているものの確かな脈動と呼吸音を感じ、彼はほっと胸をなでおろす。そして無理をさせてしまった事を反省した。
(俺もまだまだ修練が足りない様だ。一般隊士に、しかも女性にここまで無理をさせるとは。だが、彼女の歌に助けられたことは紛れもない事実だ。ワダツミの子。いや、大海原汐。不思議な少女だ)
煉獄はそのまま意識のない汐を座らせると、乗客の無事を確認しに歩き出した。
一方。
鬼の頸を見事に斬り落とした炭治郎は、伊之助と共に列車の外に放り出されていた。
首を斬る直前に炭治郎は、夢を見たいがために鬼を討伐することを拒絶していた運転手に刺され傷を負っていた。
その傷のせいで満足に動けず、か細い息をつく炭治郎。彼の頭に浮かぶのは、乗客たちの安否と、禰豆子、善逸、煉獄、そして汐の事だった。
(きっと無事だ、信じろ・・・そうじゃないと、また汐に・・・叱られるぞ・・・)
地面に横たわる炭治郎の傍で、魘夢と思わしく蠢く小さな肉片が、恨めし気に炭治郎を見つめていた。
既にその体は灰になり、崩れつつある。だがそれでも、彼は恨みをこもった眼を動かしていた。