第73章 狂気の目覚め<肆>
「そうか・・・」
鬼は心底残念そうに目を細めると、また一歩歩みを進めたその瞬間。
砲弾でも撃ち込まれたような衝撃が走り、車内がこれ以上ない程激しく揺れ、いろいろなものがぶつかって激しい音を立てた。
「大海原少女!!」
衝撃と同じくらいの声が響き渡り、汐の全身を激しく穿っていく。その衝撃の中、汐は目の前にいた鬼の気配がいつの間にか消えていることに気が付いた。
(あたし・・・助かったの・・・?)
汐は強烈なけだるさと寒気を感じた。あの時は気が付かなかったが、自分の周りには血が飛び散り、羽織も血で染まっている。
そのまま重力に任せて倒れそうになった背中を、誰かの手が支えた。
「気をしっかり持て、大海原少女!!左肩と右腹部から出血している。だが、傷はそれ程深くはない。集中し、呼吸の精度を上げるんだ」
煉獄は汐をゆっくり寝かせると、汐の目をしっかりと見据えながら言った。真剣そのもののその眼に、汐の意識がだんだんとはっきりしてくる。
「身体の隅々まで神経を行き渡らせるんだ。切れた血管を探せ。もっと集中しろ」
「・・・っ・・・・」
「集中」
煉獄の言葉がすっと染み渡り、同時に汐は目を閉じ歯を食いしばりながらその部分を探し当てる。そして
「あああああっ!!!」
声を上げながら身体をのけ反らせた後、荒く息をついた。それを確認した煉獄はすぐさま応急処置に入り、しばらくすると感覚がはっきりと戻って来た。